いくらでも魚はいる

感想文と旅行

ダンケルク(ネタバレ)

あんなに白波が立ってるのに、オールで漕ぐボートを出そうなんて。

ほら、こけつまろびつするに決まってる。

波に翻弄されるその絶望感わかる。

 

ルフトヴァッフェの爆撃に晒されながら1週間ビーチで救出を待つ兵士達の中には茫洋と入水していく者も出るが、誰も止める気力はない。潮が変わったのが何故わかると問われて「死体が戻ってきているから」と答える会話。なんとか潜り込んだ船の中でふるまわれるパンの上に載ったジャム。やっと帰国できると思ったら命中する魚雷。隠れフレンチのギブソンが扉を開けてくれるまでの溺死への恐怖。後に別の船の中でダークナイトを彷彿とさせるような理不尽な二者択一をワンダイレクションの人が迫り、その結果死ぬのはギブソンなのだった。水中で助けを求める手がすっと消えていくのはほんの一瞬のことで、ノーランの映画に余計な余韻はない。

 

"Men my age dictate this war — why should we be allowed to send our children to fight it?"

ダンケルクの撤退で最も有名な「一般市民が兵士達を助けに自らの船を出して英仏海峡を渡ったり、渡ろうとした」エピソード部分。父役のマーク・ライランスがあまりにも上手で感動するし、言うこと全てがかっこいい。あの子は大丈夫か?と聞かれて嘘をついた息子に、それでいいと眼だけで伝えるところ。

 

助けを待つ陸兵が見る海岸とは対照的に戦闘機から俯瞰する海は日差しを受けて輝き、凪いでいる。パイロットは機体が墜落したことで死ぬわけではなく、海の真ん中に落ちても望みはないとパラシュートも使わず、なんとハッチが開かないことで浸水したコックピットで溺死しかける、そのばかばかしさがよい。WW2におけるスピットファイアはひたすら格好良い存在だが、この映画に出てくる戦闘機乗りは民間人に助けられてばかりで「空軍は何をやってた」と言われてしまったりし、そんな中で帰投用の燃料を捨ててメッサーシュミットを撃墜するトム・ハーディはもはや神に近いポジションだ。ビーチから歓声が上がるなか無情にプロペラの旋回が止まり、ひどく優雅に不時着を果たした機体は燃やされ、誰も見ていないところで英雄は捕虜になる。

 

ノーランはかつて小舟で海峡を渡ろうとした時に大変な思いをしたそうで、その美しさと恐ろしさがジマーの音楽とともに打ち寄せて、あっという間に終わってしまう。

あとやっぱり、もともとすごくいい話だから。

海に行く人は見た方がいいです。